台風の豪雨や河川の氾濫による被害は、毎年のように発生しており、決して他人ごとではありません。
国土交通省が定める「川の防災情報」によると、床下浸水は「床上浸水に至らない程度の浸水」と定義されています。これは浸水の深さが50センチ以下で、成人の場合、ひざ程度までが水につかる高さです。
床下浸水の場合は「放っておいても問題ない」と感じる人もいるかもしれませんが、そのまま放置すると家の寿命を縮める原因にもなるため注意が必要です。
この記事では、家庭でできる床下浸水の対処法とその注意点や、対処を怠った場合のリスク、また、火災保険、自治体の補助金制度の適用条件について徹底解説します。
床下浸水の対処法とその手順
床下浸水したときに自分でできる対処法と、その手順を詳しく紹介します。
排水作業をおこなう
床下の電気配管が長時間水に浸かっていると、火災の原因になり非常に危険です。また、断熱材が傷んでカビが繁殖する、そのまま放置することで悪臭の原因とになるといった、衛生的にも悪影響を及ぼします。
浸水量が少ない場合は、バケツを使って水を掻き出すことができます。一方、水量が多い場合は、工事用の排水ポンプを利用すると、効率よく一気に排水できて便利です。
工事用の排水ポンプは、ホームセンターや通信販売で購入できるほか、リース会社でレンタルすることもできます。
泥を除去する
排水作業の後は、床下に溜まった泥やゴミを除去しましょう。
泥には細菌が含まれており、放置すると悪臭の原因になるため、しっかり取り除くことが重要です。
また、放置すると害虫が発生する原因にもなります。泥はできるだけ取り除き、除去後は真水でしっかり洗浄しましょう。
泥が少ない場合は、スコップやちりとり、バケツなどを使ってすくい取ります。泥量が多い場合は、大量の泥を一気に運べる「作業用一輪車」を用意する必要があるでしょう。
乾燥させる
泥を除去したら、床下を完全に乾燥させます。
湿度の高い状態が続くと、木材が腐ったりカビや害虫が発生する原因となるため、しっかり乾燥させることが重要です。
特に、夏や梅雨など湿度の高い時期は、完全に乾燥するまでに1週間以上かかる場合があります。扇風機や送風機を使って根気よく乾燥させましょう。
なお、送風機を使用する際に温風を当て続けると、木材の歪みや火災の原因になるため、必ず送風で乾燥させてください。
消毒する
厚生労働省では、原則として床下浸水時の消毒は必要ないと示しています。ただし、次のようなケースでは消毒作業が必要です。
- 下水や浄化槽の汚水があふれている
- 床下が乾燥しにくい
- 氾濫した河川の水が流れ込んだ
- 腐敗物や動物の死骸が流れ込んだ
消毒剤は、ホームセンターなどで販売されている、消石灰(水酸化カルシウム)を使用するのが一般的です。消毒したい場所に1平方メートル当たり、1キログラムを目安に散布します。
ただし、消石灰は殺菌作用が強いため、吸い込んだり目に入ったりすると危険です。散布する際は、防塵マスクやゴーグルなどを必ず着用してください。
市区町村によっては消石灰を配布している場合もあるので、事前に各自治体に確認しておきましょう。
参照:厚生労働省
床下浸水の対処に必要な準備
作業を始める前に、床下浸水の処理に適した服装や、必要な道具を確認しておきましょう。
作業時の服装
作業中は、ケガや感染症などを防ぐために長そで・長ズボンで手袋を着用してください。また、長靴を履くと汚泥やガラス、金属片などから足元を守ってくれます。
半そでやサンダルといった軽装で作業すると、川や下水に含まれる細菌によって破傷風に感染するケースもあるため、非常に危険です。
また、作業中は泥水・粉じんなどが目や口に入る可能性もあります。健康面に被害を及ぼすこともあるので、必ずゴーグルやマスクを身につけましょう。
作業時の服装 | |
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長そで・長ズボン | 汚泥や土砂から肌を守り感染症を予防する |
長靴 | 汚泥やガラス・金属片などから足元を守る |
軍手・ゴム手袋 | ゴミなどを運び出す際に手元のケガを防ぐ |
マスク | 粉じんを吸い込まないようにする |
ゴーグル | 粉じんや泥水から目を保護する |
帽子・ヘルメット | ケガや泥水、直射日光を防ぐ |
作業に必要な道具
汚水や泥をすくうために、スコップやちりとり、バケツを用意しましょう。また、泥をまとめる土のう袋やビニール袋、乾燥させるための送風機なども必要です。
膝あたりまで水があふれている場合は、排水ポンプがあると効率よく作業が進みます。また家の中に泥が入った場合に、高圧洗浄機があると簡単に洗い流せて便利です。
そのほかにも、土のう袋などを運ぶための運搬用一輪車や、たまった水を拭いたり排水したりする、タオルやぞうきん、スポンジなどもあると重宝します。
作業に役立つ道具 | |
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スコップ・バケツ・ちりとり | 泥や汚泥をすくう |
排水ポンプ | 大量の水を排水する |
ホース・高圧洗浄機 | 泥の洗浄に便利 |
扇風機・送風機 | 床下を乾燥させる |
運搬用一輪車 | 土のう袋の運び出しに便利 |
土のう袋・ビニール袋 | 泥やゴミをまとめる |
タオル・ぞうきん・スポンジ | 溜まった水を拭いたり排水したりする |
床下浸水を放置しているとどうなる?
床下が浸水した状態のまま放置していると、衛生面や住宅の耐久性に影響を及ぼす危険性があります。浸水被害にあった場合は、できるだけ早めに対応しましょう。
- 悪臭が発生する
- 土台部分が腐食する
- カビが発生する
- シロアリなどの害虫が発生する
悪臭が発生する
水害で流れてくる汚水や泥には、微生物や雑菌類などが潜んでおり、これに逆流した下水や浄化槽の汚水、カビなどが混ざりあうと悪臭の元となります。
床下は湿気が溜まりやすいため、対処を怠ると雑菌の繁殖が進行します。悪臭は排気口や配管をつたって家中に充満し、頭痛や吐き気など健康に悪影響を与える恐れもあるのです。
そのまま放置した場合、排泄物臭は1ヶ月程度、流木や湿った建材、畳などから発する臭いは数か月から半年ほど残ることがあります。
土台部分の柱が腐食する
床下に湿気が溜まっていると、 木材を腐食する木材腐朽菌(もくざいふきゅうきん)が繁殖し、土台部分の柱が腐ったり、床束釘がサビついたりして、家の耐久度が低下する可能性があります。
また、床下に電気配管がある場合は「火災や破裂」、水道管が傷んだ場合は「水漏れ」が起きることもあるので注意が必要です。
カビが発生する
床下は湿気がこもりやすく、直射日光が当たらないためカビが発生しやすくなります。
浸水した水が引いた後は、一見もとに戻ったように感じられますが、湿気や汚泥に含まれる微生物などを栄養源に、カビが増殖するケースが多いです。
カビを放置すると、木材が腐食して家の耐久性が落ちるほか、吸い込んで健康面に影響を及ぼすこともあります。
気密性や断熱性が高い現代の住宅は、住み心地が良い反面、風通しが悪く湿気がこもりやすいので、意識的なカビ対策が必要といえるでしょう。
シロアリなどの害虫が発生する
湿度の高い床下は、シロアリやダニ、ゴキブリなどの害虫が好む理想の環境です。
害虫は洪水に運ばれてくることもあれば、悪臭に誘われて産卵し繁殖するものもいます。これらの害虫は、感染症の媒体になるケースもあるため注意が必要です。
またシロアリの場合、噛みついて危害を加えることはありませんが、家の柱や壁の内側を食い荒らし、建物の耐久性を低下させる恐れがあります。
床下浸水は保険や補助金の対象になる?
床下が浸水した場合の処理作業には費用がかかるため、火災保険や補助金の対象になるのかどうかは気になるところです。事前にしっかり確認しておきましょう。
火災保険の対象になるケース
火災保険の水害補償を適用するには、基本的には次に紹介する支払基準のいずれかに該当する必要があります。
- 床上浸水の場合
- 建物・家財の損害割合が30%を超える場合
- 地盤面から45cmを超える浸水で損害が出た場
床下であっても、「地盤面から45cmを超える浸水で断熱材などが水にぬれてしまい損害が出た」というような場合は、火災保険で保険金を受け取る事ができます。
床上浸水に限らず、建物評価格の30%を超える損害が出た場合は、補償対象になるケースもありますが、一般的にこのような事例は少ないのが現状です。
ただし、床下浸水の「特定設備水害補償特約」がある保険会社やと契約している場合は、設備の破損という形で保険金が支払われます。
床下浸水と床上浸水の定義
床下浸水 | 床上浸水 | |
---|---|---|
浸水深 | 0m~0.5m | 0.5m~1m |
浸水程度の目安 | 成人の膝までの高さ | 成人の腰までの高さ |
出典:家庭での被災想定
補助金制度の対象になる場合もある
自治体の補助金制度も、床下浸水は適用対象外のケースが多いです。ただし、被害の規模によっては修理費の援助金が受け取れる場合もあります。
例えば、災害救助法で定められている「住宅の応急修理制度」は、半壊または大規模半壊の被害を受けた住宅に適用される制度です。
修理の範囲は、日常生活で欠くことができない屋根や壁、床が対象となります。
ほかにも、独自の補助金制度を設けている自治体もあるので、行政のホームページで確認してみてください。
出典:6.住宅の応急修理
床下浸水を自己処理する際の注意点
床下浸水の処理を自身でおこなう際に、注意しておきたい点があります。
- 時間と労力が必要
- 感染症・破傷風に注意
- 粉じん被害の危険性
- 家が傷む可能性も
時間と労力が必要
床下浸水の処理を自身でおこなうには、膨大な時間と労力が必要です。
まとまった時間を確保して早急に対処する必要がありますが、汚水や泥の撤去に手間がかかってしまう可能性もあります。
湿気の多い時期であれば、乾燥に数週間かかってしまうことも少なくありません。
また、作業には万全な感染症対策が必要な上、汚水や泥の量が多い場合は、排水ポンプや運搬用一輪車なども自分で用意する必要があるなど、自己処理にはある程度の労力が必要です。
感染症・破傷風に注意
清掃作業中は、汚水に含まれる雑菌や、有害物質による破傷風や感染症に注意が必要です。
洪水で流されてきた木や金属、ガラス片などでケガをしてしまったり、傷口から菌が入り込み、感染してしまう可能性もあります。
主な感染症には、口が開けにくい、飲み込みにくいなどの症状をともなう破傷風のほか、倦怠感や頭痛、筋肉痛などを発症するレジオネラ症があります。
重症化した場合は、呼吸障害や肺炎などを引き起こす危険性もあるため、症状を感じたらすぐに医療機関を受診しましょう。
粉じん被害の危険性
作業中の粉じん被害にも、十分な注意が必要です。床下を乾燥させた後に、細かい土埃などが舞い上がって、目に入ったり吸い込んだりする危険性があります。
目に入ると結膜炎、吸い込むと気管支炎やレジオネラ症に感染する可能性もあるため、作業中は必ずマスクやゴーグルを装着してください。
誤って目に入った場合は水で洗い流し、口に入った場合はうがいをします。症状が重い場合は医療機関を受診してください。
家が傷む可能性も
床下に汚水や汚泥が残っていると、雑菌やシロアリなどの害虫が繁殖しやすい上、湿気で柱が腐食したり配線が傷んだりする原因になります。
また、家庭で清掃作業をする場合、床下を完全に乾燥させたと思っても生乾きの場合があるなど、個人では判断が難しいこともあるでしょう。
完全に乾燥させないと家の寿命に悪影響を与えることもあります。自己処理が難しい場合は、専門業者に依頼することをおすすめします。
床下浸水の処理は専門業者への依頼がおすすめ
慣れない床下での作業には多くの労力と時間を必要とします。
専門業者に依頼すると、自分では処理が難しい細かな部分も、隅々まで排水や乾燥、消毒してもらえます。
さらに、自己処理にともなうケガや感染症、粉じん被害などのリスクを気にしたり、作業に必要な装備や道具をそろえたりする必要もありません。
費用はかかりますが、自分で作業をおこなうよりも、精神的な負担を軽減できる点が大きなメリットです。
まとめ
床下浸水の被害にあったら、作業に適した服装と道具を準備し、床下の排水作業をおこないましょう。その後、泥を除去し、完全に乾燥させて細菌が繁殖しないよう消毒します。
床下浸水の処理作業を怠たると、悪臭やカビ、シロアリなどの害虫が発生するほか、住宅の木材部分が腐食して家の寿命にも影響を与えかねません。
できるだけ早めの対応が必要ですが、「自己処理が難しい」「時間や労力をかけたくない」という場合は、専門業者に依頼することをおすすめします。