断熱材は熱の移動を遅らせ、室外の温度を室内に伝わりにくくする役割がある一方で、シロアリ耐性が弱い側面もあります。シロアリ耐性は断熱材によって異なるため、被害を防ぐにはシロアリに強い断熱材を選ぶことが大切です。

そこでこの記事では、断熱材とシロアリとの相性を種類別に解説します。シロアリ耐性は、断熱工法も大きく影響します。断熱工法ごとのシロアリ耐性も併せて解説するので、シロアリに強い住環境は何かを把握しましょう。

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断熱材とは

断熱材とは室外の熱移動を遅らせ、室内に暑さや寒さを伝わりにくくする素材です。住宅の断熱性能を高めることを目的に、建物の外部に面する天井や床、壁、屋根などに使用されています。

夏は涼しく冬は暖かい住環境を実現できるため、冷暖房の消費電力をおさえられ、光熱費の節約が期待できます。また、断熱材を使用すると室外の冷気と室内の暖気を触れにくくするため、結露が発生しにくい状況を作ることが可能です。

断熱材はシロアリに弱く食害されやすい

断熱材は住宅の快適性を高められる一方で、シロアリに食害されやすい側面があります。シロアリは乾燥や光に弱いため、地表で「蟻道」を作りながら移動するのが一般的です。

蟻道とは、シロアリが苦手な外気や直射日光を避けるために作るトンネルです。しかし、地表でも蟻道を作らずに移動できる方法があります。それは断熱材です。断熱材の中は蟻道の代わりになるため、シロアリが移動しやすくなります。

また、断熱材は柔らかくかじりやすい素材のため、木材よりも被害の進行スピードが速くなります。ただし、すべての断熱材が同じような被害に遭うわけではありません。断熱材にも種類があり、それぞれシロアリ耐性が異なります。

断熱材の種類とシロアリの相性

断熱材には、おもに繊維系断熱材・天然素材系断熱材・発泡プラスチック系断熱材の3種類があり、素材によってシロアリ耐性が異なります。

断熱材の種類 素材の種類 メリット デメリット シロアリ耐性
繊維系断熱材 鉱物系 グラスウール
  • 比較的価格が安い
  • 耐久性が高い
  • 耐水性が低い
強い
ロックウール
  • 耐久性が高い
  • 防音効果が高い
  • 比較的価格が高い
  • 脱落により断熱性能が下がる可能性がある
強い
天然系 セルロースファイバー
  • 環境負荷が低い
  • 防虫効果が期待できる
  • ほかの断熱材よりも多くの量が必要
  • 工事費が高い傾向にある
強い
インシュレーションボード
  • 軽く加工しやすい
  • 透湿性に優れている
  • 耐水性が低い
  • 防虫効果が期待できない
強い
天然素材系断熱材 ウールブレス(羊毛)
  • 環境に優しい
  • 防虫効果が期待できる
  • 比較的価格が高い
  • 施工に対応している業者が少ない
強い
炭化コルク
  • 断熱性能が高い
  • 防虫効果が期待できる
  • 比較的価格が高い
強い
発泡プラスチック系断熱材 フェノールフォーム
  • 断熱性能が高い
  • 耐水性が高い
  • 物理的な衝撃に弱い
  • 比較的価格が高い
弱い
ポリスチレンフォーム
  • 断熱性能が高い
  • 断熱性能が劣化しにくい
  • 耐火性が低い
弱い
硬質ウレタンフォーム
  • 気密性を高められる
  • 耐水性が高い
  • 紫外線に弱い
  • 耐火性が低い
弱い

繊維系断熱材


繊維系断熱材は、鉱物系と天然系の2種類があります。

グラスウール

グラスウールはガラスを高温で溶かし、細かい繊維状に加工した断熱材です。再生品のガラスを主原料にしているため、ほかの断熱材に比べて比較的安く手に入ります。

経年変化のリスクが低く、耐久性が高い点も魅力の1つです。主原料のガラスは無機質素材になるため、シロアリの食害を受けにくくなります。

しかし、耐水性が低く、水に濡れたり湿気を含んだりすると、断熱性能が失われます。また、グラスウールの断熱材で断熱性能を高めるには、隙間なく施工する高い技術が必要です。押し込み過ぎたり隙間ができたりすると、その分断熱性能が落ちます。

ロックウール

ロックウールは主原料の玄武岩や鉄鋼スラグなどを高温で溶かし、綿状に加工した断熱材です。耐久性に優れており、経年変化が少ないため、高い断熱性能を長期にわたって維持できます。繊維の間にある空気が音のエネルギーを吸収するため、防音効果が抜群です。グラスウールと同様に主原料は無機質素材なので、シロアリ耐性は強い傾向にあります。

一方で同じ鉱物系のグラスウールに比べると、価格が高い傾向にあります。また、ロックウールは重量があるため、施工後に壁の下部分で固まってしまう可能性もゼロではありません。万が一脱落した場合、断熱性能が下がってしまします。

セルロースファイバー

セルロースファイバーは新聞紙やおがくず、段ボールなどを粉砕し、綿状に加工した断熱材です。天然系の素材を主原料としているため、環境負荷が低いため、多くの業界から注目を集めています。

また、セルロースファイバーには、ホウ酸が含まれています。ホウ酸とは、シロアリの駆除や予防に効果的な物質です。一般的な方法では駆除が難しいとされているアメリカカンザイシロアリには、ホウ酸が使用されるケースもあります。ホウ酸が使用されたセルロースファイバーは、シロアリ対策として有効です。

しかし、セルロースファイバーは、密度を高くするために多くの量が必要です。量の目安は、グラスウールの3倍以上です。専門職人による専用機器での作業を要するため、工事費が高い傾向にあります。

インシュレーションボード

インシュレーションボードは、粉砕した木質繊維に合成樹脂や接着剤を混ぜ、乾燥させたボード状の断熱材です。木質繊維なので軽く、加工しやすいことが特徴です。透湿性にも優れており、結露の発生防止に役立ちます。

一方で主原料が木材なので、水や湿気に弱い側面があります。そのデメリットを補うために、シージングボードと呼ばれる断熱材が新たに開発されました。また、セルロースファイバーのようにホウ酸が含まれていないため、シロアリの食害を受ける可能性があります。

ウールブレス(羊毛)

ウールブレスは、天然のウール(羊毛)を主原料とした断熱材です。ウールカーペット製造時の端材や羊毛素材を使用した衣服をリサイクルし、防虫加工が施されています。加工段階でホウ酸処理が施されており、シロアリ耐性が強い傾向にあります。

調湿性に優れており、高温多湿な日本の気候でも快適性を高められるでしょう。天然素材を使用しているため、環境にも優しく、健康被害の不安もありません。

一方で天然のウールは、大量に製造できる鉱物系の断熱材に比べて生産量が限られるため、価格が割高です。また、ウールブレスの施工には高い技術が必要なことに加え、採用している住宅メーカーも少ないため、業者探しが難航する可能性があります。

炭化コルク

炭化コルクは、コルク栓を製造する過程で出た端材を主原料とした断熱材です。1立方メートルあたりに4,000万個の空気が含まれているため、断熱性能が抜群です。コルクのベースになるコルク樫には、スベリンと呼ばれる物質が含まれています。スベリンには虫除け効果があるため、ダニやシロアリなどの発生を抑制できます。

一方でウールブレスと同様に天然素材なので、ほかの断熱材に比べて価格が割高です。背景にはコルク樫自体が減少傾向にあることや、輸入による運送コストがかかることも関係しています。

発泡プラスチック系断熱材

代表的な発泡プラスチック系断熱材には、フェノールフォーム・ポリスチレンフォーム・硬質ウレタンフォームの3種類があります。繊維系断熱材や天然素材系断熱材に比べると、シロアリ耐性は低い傾向です。

フェノールフォーム

フェノールフォームはフェノール樹脂と呼ばれる樹脂に、発泡剤や硬化剤を混ぜて作った断熱材です。熱の移動のしやすさを表す熱伝導率が低いため、断熱性能が抜群です。

主原料がプラスチックなので、水や湿気に強く、耐水性にも優れています。ボード状の断熱材をパズルを埋めるように張り付けていくため、比較的作業が容易で、多くの業者が対応しています。

一方でフェノールフォームの厚みは35ミリ程度と薄く、物理的な衝撃には強くありません。また、発泡プラスチック系の断熱材はシロアリの食害に遭う可能性があるため、事前に防蟻対策が必要です。

ポリスチレンフォーム

ポリスチレンフォームはポリスチレン樹脂と呼ばれる樹脂に、発泡剤を混ぜて作った断熱材です。素材の気泡の中には熱伝導率を下げるガスが含まれているため、断熱性能が高く、劣化しにくい傾向にあります。

一方で、フェノールフォームと同様にシロアリが素材をかじるリスクがあるため、防蟻処理が必要です。また、ポリスチレンフォームは火に弱い側面があり、熱が加わった部分が変形する可能性があります。そのため、製造過程では難燃剤が加えられるケースが多いようです。

硬質ウレタンフォーム

硬質ウレタンフォームは、ポリウレタン樹脂と呼ばれる樹脂に発泡剤を混ぜて作った断熱材です。業者が現場で発泡して成形しながら張り付けていくため、細部まで行き届きやすく、気密性を高められます。

フェノールフォームやポリスチレンフォームと同様に、プラスチック系素材なので耐水性に優れています。一方で、防蟻加工が施されていない断熱材は、シロアリ耐性が強くありません。また、紫外線に弱く、直射日光が当たる場所の断熱材は劣化が早い傾向にあります。

住宅の断熱工法によってシロアリへの耐性が異なる

シロアリへの耐性は断熱材の種類だけではなく、断熱工法でも差異があります。断熱工法には、おもに内断熱と外断熱の2種類があります。さらに内断熱と外断熱の両方を施工する付加断熱と呼ばれる方法もあり、それぞれシロアリ耐性が異なります。

内断熱(充填断熱)

内断熱とは柱や壁の隙間に断熱材を敷き詰める工法で、充填断熱工法と呼ばれることもあります。天然素材系や発泡プラスチック系など、多くの断熱材に対応しています。

シロアリは地中から蟻道を延ばし、住宅の木材に侵入するのが一般的です。内断熱は基礎の内側に断熱材があるため、土壌と床下が直に接することはありません。そのため、外断熱に比べてシロアリの侵入リスクをおさえられる可能性があります。

外断熱

外断熱とは、コンクリートの建物の外側を断熱材で包み込む工法です。通常、外断熱は基礎断熱と同時に施工されるケースが多い傾向にあります。基礎断熱とは、基礎の立ち上がり部分を断熱材で覆う仕様です。

基礎断熱を施すと床下空間が一定の温度に保たれるため、シロアリが寄りすきやすい環境となります。また、外断熱は断熱材が土壌に直接触れるため、シロアリが侵入しやすくなるでしょう。

対策として、防蟻メッシュを使用する方法が挙げられます。防蟻メッシュとは、シロアリの侵入を防ぐステンレスのメッシュシートです。シロアリが侵入しそうな場所にシートを隙間なく設置すると、物理的な侵入を防げます。

付加断熱

付加断熱とは、内断熱と外断熱の両方を取り入れた工法です。熱損失が少ないため、断熱性能を高めることが可能です。ただし、充填部分と断熱材との透湿抵抗が高いと、結露が発生しやすくなります。

そのため、付加断熱では、透湿抵抗が低いグラスウールやロックウールが使用されるのが一般的です。主原料が無機質素材の断熱材自体は、シロアリに食害されにくい傾向にあります。しかし、断熱材が土壌に直接触れる外断熱も施すため、シロアリ対策が必要です。

まとめ

断熱材は室外の温度を室内に伝わりにくくするため、夏は涼しく冬は暖かい快適な住環境を整備できます。しかし、断熱材は基本的にシロアリに弱く、住宅が被害に遭う可能性があります。

シロアリ被害を防ぐには、シロアリ耐性の強い断熱材を選ぶことが大切です。繊維系断熱材と天然素材系断熱材は、シロアリ耐性が強い傾向にあります。土壌と床下が直に接しない内断熱を選べば、シロアリ耐性を高められます。

ただし、断熱材や工法にこだわっても、シロアリの侵入を完全に防げるわけではありません。定期的に業者に点検してもらい、必要に応じて防蟻処理やシロアリ駆除を依頼しましょう。

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